カメラ画像とデジタル処理

カメラというシステムを理解する。利用価値の高い写真は,

  1. 構図を決める
  2. ピントを合わせる
  3. 露出を合わせる
  4. タイミングを合わせる

ことで撮影できる。2と3については理論を伴った実践が 速い習熟に繋がる。ここでは,それに必要な光学的知識を得ることを目標とする。

段階的事前課題

以下の2種類の課題をこなしてから先に進むこと。

写真撮影の課題

  1. きれいな夕景(夕焼け色)を撮影せよ
  2. 季節が分かるように花を撮影せよ
  3. 広い場所で横に並んだ2人を上半身全体が写る程度でくっきりと撮影せよ
  4. 上記で撮影したものを貼り付けたWebページを作成せよ

数学の復習課題

  1. 1, 2, 4, 8, ... と2倍で増加する数列を 216 まで暗記し,どの数が2の何乗か即答できるようにせよ。
  2. log(対数)とはどういう関数か実例を示しつつ説明せよ
  3. $\log ab = \log a + \log b$ を証明し,その意味を説明せよ。
  4. 三角関数の sin, cos, tan はどのような比率か図解できるようにし, 覚え方も説明せよ。
  5. 逆タンジェント関数(tan-1)はどういうものか説明せよ。

撮影前の注意

撮影を行なう日,最初に行なうべきことを示す。

また,カメラを手にしたときに, 露出補正値,モードダイヤル,ISO値,ホワイトバランスを 確認する癖を付けておく。 カメラをどこかに置くときストラップは吊り下げず, 折り畳んでテーブルの上に置く(引っかけて落とす原因となる)。

フォーカス要素

ピンぼけでない写真を撮るための注意点を示す。

測距点

現在のカメラは自動的にピント合わせを行なう オートフォーカス(AF)機構を備えている。 ファインダにおさまる像のうち,ピント合わせを行なう位置を 測距点という。

Auto Focusing Point

どの測距点を活性化させるかの方式を選べる。

中央 [・]

つねに中央の測距点を用いる。ピント合わせしたいものを 像の中央以外に置きたい場合でも,中央で一度合焦させてから 構図を決めて撮ることで確実に狙った点を選べる。

選択 [SEL] [::]

いくつかある測距点のうちどれかを事前に選択する。

自動 [:AUTO:]

被写体の様子からカメラが自動的に判断する。 当たると楽だが外れるとイライラする。

AFモード

以下の合焦方式切り替えを適宜行なう。

AF-S

Single ServoのAFモード。AF呼出しで1回決まった合焦点で 確定する。静止物の撮影では通常これを用いる。

AF-C

Continuous ServoのAFモード。合焦しても対象物が動いたら それに追従してAFを駆動させる。動くものを撮影するときに使用する。 AFモードで切替えるよりも,撮影モード「スポーツ」に切替えた方が すばやく操作できる機種もある。

AF-A

AF-SとAF-Cをカメラが自動的に切り替える。

AFボタン切替

初期状態ではシャッターボタン半押しでAFが機能するものが多い。 半押しAFは楽だが,連写するときにいちいちAFが駆動するので 遅くなったり,測距点をずらして撮影しているときに連写ができない。

このためシャッターとAF駆動を別のボタンにする機能がある。 「AFボタン」がある機種や,「AE-L」ボタンをAFボタンにできる機種がある。 これを選択することで,ピントを固定した状態での連写がすばやくできるように なるが,いっぽう通常のピント合わせ撮影をしたいときにも必ず 「AFボタン→シャッター」と連続押しする必要ができる。このため, 普段のシャッターボタンで半押しAFを有効化しつつ AFボタン(またはAE-Lボタン)でAFをオフにさせる (AFキャンセル機能)ような設定もある。

置きピン

動いているものにピントを合わせるのは難しい。得意な機種もあれば そうでない機種もあるし,得意な機種でも次の1枚で成功する保証はない。 こちらに向かって来る人や車のように,実際に来るまでピント合わせができない ものは,あらかじめ撮りたい地点の地面や物体でピント合わせをしたまま フォーカスロックしておき,実際に来たタイミングでシャッターを切る。 このような操作を通称置きピンといい,速い物体を 確実に収めるために有効である。

AFの練習

  1. 中央AFで狙ったものを合焦させ,中央からずらして撮る。

  2. 測距点を切り替えて撮る(例: 縦位置構えで顔に測距点を合わせつつ 胸を中心に撮る)。

  3. 置きピンを利用して撮る(ブランコに乗る人など)。

露出に関する要素

人間が感じられる自然界の光の強さには1億倍の幅がある[照度と明るさの目安 (大阪市立科学館)]。 明るいと思われる蛍光灯下の室内(およそ1000ルクス)を基準としても, 日中の太陽光下はその100倍のおよそ10万ルクス程度ある。 人間は瞳孔の開閉で,目に入ってくる光の量を調整し明るさの変化を緩和している。 暗いところから急に明るいところに出ると目が眩む(A)。 明るいところから急に暗いところに入るとすぐには見えない(B)。 目の感覚器が知覚できる明るさの範囲は限られていて, その明るさの範囲になるよう瞳孔が調整している。 Aのとき次第に明るさに慣れて行くのを明順応, Bで暗さに慣れて行くのを暗順応という。

(デジタル)カメラのセンサーも映像として知覚できる光の強さの範囲が 限られているて,最も暗い明るさを基準として 25〜26 程度の範囲しかない。カメラの露出に関しては, 明るさが2倍異なる変化量を「1段」という。 よって,デジタルカメラで表現し切れる量は「5〜6段」となる。 カメラが輝度的に破綻なく映像化できる範囲のことをラティテュード という。

自動露出決定機構(AE)

カメラのオート撮影機能は,被写体全体がラティテュード内に納まるよう, シャッタースピード/絞り/感度を調節して,明るさを一定に保とうとする。 そのため,純白の布を撮っても明るい灰色に,黒の布を撮っても暗い灰色に写る。 これが自動露出決定機構(AE: Auto-exposure)である。

AE機構の働きの例: Photo Photo Photo Photo

露出補正

明るいものを明るく(薄い色合のものを薄いまま), 暗いものを暗く(濃い色合のものを濃いまま)撮りたいときは, 露出補正を行なう。

[+/-] のようなボタンで露出補正を行なう。おおむね以下のとおり。

+3.0	真白に
+2.0	白っぽく
+1.0	明い感じ
+0.0	カメラの評価どおり(グレー)
-1.0	暗い感じ
-2.0	黒っぽく
-3.0	真黒に

露出補正を用いた写真の例 Ev0 Ev -1 Ev -2 Ev +1 Ev +2 を示す

測光方式の選択

カメラが露出を決めるアルゴリズムを選択する。

評価測光 【[◎]】

画像全体の明るさの平均値で露出を決める。 全体のバランスはよくなるが,逆光があると暗い部分が見づらくなる。

中央部重点測光 [(・)]

画像の中央部付近を重点的に評価して測光する。比較的逆光にも強い。

スポット測光 [ ・ ]

中央部(または測距点)の明るさのみで露出を決める。 たとえば顔だけを適度な明るさで撮りたいときなどに使用する。 測光点を誤ると極度に明るい・暗い画像となる。

3種の測光方式を切り替えた例 AE Multi-Segment AE Center-wighted AE Spot

AEロック(AE-L)

AE有効時は,レンズの向きを変えるごとにそのときの適正露出となるように 値が変わる。ある構図で構えたときの露出値で固定させる機能がAEロックで, 「AE-L」などの表示のあるボタンで行なう。

AEの練習

  1. 色に合わせて露出補正して撮る
  2. 顔で露出合わせしてAEロックし,ずらして撮る

白とび・黒つぶれ

ある露出値のときに,入って来た画像に対して色を表現するときに, RGBすべての数値が0になるものより,暗いものはどれも0x000000の黒となる。 逆にRGBすべての数値が0xffを超えるものより明るいものはどれも0xffffffの 白となる(24ビットの場合)。

記録された画像で,ある場所の暗さ以下のすべての点の RGB値が0になり,真黒に塗りつぶされたような状態になったものを黒つぶれ, 逆に飽和して真白塗りになったものを白とび という。

画像に白とびや黒つぶれがあるかは,ヒストグラムで確認できる。 「ほどよく」撮れた写真は以下のようなヒストグラムになる。

Histgram of Photo Image

横軸が輝度,縦軸が分布で,おおまかには分布の山の裾野が左右で途切れていず, 山の高い部分が左右いずれにも寄っていない。 白とびした写真は以下のようなヒストグラムになる。

Blown-out Highlights

実際に撮った写真では,明るい写真には白とびが多いいっぽう, 真黒に見える写真のほとんどは単に暗すぎる(露出アンダーの)ものであり, 色情報は残っているものであることが多い。

以下の暗い画像(画像クリックで拡大画像)は
kuma

暗くて見えない部分には色情報がなさそうに見えるが, ヒストグラムは以下のとおりである。

Histogram of KUMA photo

山が左(輝度の低い側)に偏っているので露出アンダーと分かる。 しかし山の左端が切れていないので黒潰れがほとんどないことも分かる。 GIMPで暗い部分を持ち上げると以下のような画像になる。

輝度が中間域(たとえば100前後)にあるべきものが, 半分の半分の明るさに(2段暗く)なっても情報が残る(25)が, 倍の倍の明るさ(2段明るく)なると,255を超えて情報溢れとなる。 溢れた情報は近似すらできない。 明るくて白とびした画像 Too blight より, 暗すぎる画像 Too dark の方が まだ救いようがある(白とびを赤,黒潰れを黄の点で表現)。

露出補正の練習

  1. 逆光あるいはそれに近い状況で人物を撮り, 撮影した画像のヒストグラムを確認せよ。

  2. 輝度が偏っていたら測光方式を変えるか, AEロックを使って撮り直してみよ。

意図を反映した撮影

露出に関するパラメータを全てカメラが設定するオートモードは 平均的な画像は失敗なく撮れる代わりに, 意図したものを意図したとおりに 撮れないこともある。撮影に関する様々なパラメータを人間が意識的に制御して 撮影するための要素について説明する。

P/Tv/Av/Sv/TAv/M

カメラが露出を決める方式を切替える主な撮影モードについて説明する。

P

プログラムモード。カメラが自動的に適正な露出になるよう, シャッタースピードと絞り(と場合によっては感度) の組み合わせを自動的に決定する。カメラが決めた値を ダイヤル操作でずらして撮影することもできる。

Tv

シャッター速度優先モード。人間がシャッター速度を決めて, カメラがそれに合う絞り(と場合によっては感度)を自動的に決定する。 シャッター速度によって写り具合が変わるもの(川の流れ,滝,波, 走っているものなど)を撮るときに選択するのが効果的。 シャッター速度と滝の写の写り方を示す

Av

絞り優先モード。人間が絞りを決めてカメラがそれに合う シャッター速度(と場合によっては感度)を自動的に決定する。 絞りは写真の奥行き感とボケ具合を決めるので,静止しているものであれば このモードが効果的。 絞りを変えた効果を示す

Sv

感度優先モード。人間が感度を決めてカメラがそれに合う シャッター速度と絞りを自動的に決定する。一部のカメラのみにある。 感度を上げると暗いところでも明るいものが撮れるが, その代わりに画質が低下する。 感度を変えた例を示す

TAv

シャッター速度・絞り優先モード。人間がシャッター速度と 絞りを決めて,カメラがそれに合う感度を自動的に決定する。 躍動感を決めるシャッター速度と,奥行き感・ボケを決める絞りを しっかりと決めたい場合に効果的。PENTAXの中級機以上にある。

M

マニュアル露出モード。人間が,シャッター速度,絞り,感度 全てを明示的に決めて撮影する。花火や天体などカメラが自動的に 露出を決められない物を撮る場合に使用する。

適正露出の感覚把握

M(マニュアル露出)モードに設定し,以下の各状況で人物を写すときにおいて 適正露出を得られる感度,シャッター速度,絞りの値の組み合わせを発見せよ。

  1. 晴れた日の昼のひなた
  2. 晴れた日の昼の日蔭
  3. 晴れた日の窓を開けた教室内
  4. 曇りの日の昼
  5. 夕陽の出ている頃
  6. ブラインドを閉めて蛍光灯を点けた教室内
  7. 夜の蛍光灯を点けた室内
  8. 夜の室内であかりを消してロウソクだけに照らされた顔

また,8番の一番暗い状態を1としたときに,1から7が何倍の明るさに 相当するのかを計算で求めよ。

なお,なかなか晴れそうにない場合は曇りの日の値でよい(1番以外のみ)。 ロウソクなどの火を用いるときは火の始末に気を付けること。 同程度の他の照明でも構わない。

ぶれ

シャッター速度が不十分な場合は,被写体が止まらずブレた写真になる。 以下の3種類がある。

手ぶれ

カメラを持った手が動いて,カメラが回転してブレる。 一般的には,レンズの焦点距離(mm)の数値と同じシャッター速度 があればよいという目安がある。たとえば,50mmの焦点距離なら シャッター速度50分の1より速い速度を確保するとよい。 概算的数値なので明るさに余裕があればもっと速くする。

遅いシャッター速度で撮影すべきものもある。そのときは,

する。

被写体ぶれ

被写体自身の動く速さでブレるものをいう。 被写体の動く速度に応じたシャッター速度を設定する。 普通の動作を止めるなら60分の1以上,歩いている人の顔を止めたいなら 125分の1以上,走っている人なら500分の1程度,球技の競技者を 写すなら1000分の1以上が目安。

ミラーショック

一眼レフカメラは,撮影の一瞬前にミラーが跳ね上がり, 一瞬後にミラーが戻る。その衝撃をミラーショックといいブレの原因になる。 天体写真や夜景など,点を点のまま写したい場合にはミラーショックを なくすため,あらかじめミラーを上げた状態でシャッターを切る。 初級者向きの一部の機種を除き,ドライブモード(後述)を「タイマー」に すると,ミラーをあらかじめ上げた状態で撮影しミラーショックを防ぐ。 2秒タイマー撮影は手ぶれ防止にも効果的。

センサーサイズ

レンズを通り,デジタルカメラの内部に入って来た像は イメージセンサーに届く。デジタルカメラの 代表的なセンサーサイズには以下のものがある。 幅と高さの比(アスペクト比)も示した。

中判 4:3

44mm×33mm のもの。デジタルではPENTAX 645Dがこのサイズ。

35mmフィルム型(フルサイズ) 3:2

銀塩35mmフィルムの感光部と同じ36mm×24mmのもの。 通称「フルサイズ」で一眼デジタルカメラではプロ向けの機種がこのサイズ。 135フィルムサイズともいう。

APS-Cサイズ 3:2

APSフィルムのサイズで 23.4mm×16.7mm 程度のもの。 おおむねデジタル一眼レフ中級機までがこのサイズ。

フォーサーズ (Four Thirds; 4/3型) 4:3

オリンパス,パナソニックのデジタル一眼で採用しているサイズ (17.3mm×13.0mm)。

1/3インチ 4:3

「ケータイ」付属のカメラなどがこのサイズ(4.8mm×3.6mm)。

センサーが大きければ,より広い面積の画像を撮影できる。

参考: 撮像素子面積

レンズ: 焦点距離と画角

平行光がレンズを通過したときに像を結ぶ点(焦点)とレンズの距離を 焦点距離という。

Focus

いっぽう,レンズの位置を基準に, どの範囲の画像がセンサーに届くかの角度のこと, つまり視野の広さのことを画角という。 画角は焦点距離とセンサーの大きさによって決まる。

センサーが大きければより広い画角となる。 また焦点距離が小さくてもより広い画角となる。

Short Focus

センサーの大きさが一定であれば,以下の関係が成り立つ。

レンズの焦点距離が小さい画角が大きい(広い)=広角レンズ
レンズの焦点距離が大きい画角が小さい(狭い)=望遠レンズ

画角はセンサーサイズと焦点距離の関係で決まるが, フィルムカメラに一般的だったフルサイズのセンサーの大きさ(36mm×24mm) を基準とし換算焦点距離を付記することが多い。

たとえば,焦点距離50mmのレンズをAPS-Cサイズのカメラに装着する場合, フルサイズカメラ(感光部幅36mm)への装着時よりも画角が狭くなる。 その画角は,フルサイズカメラに焦点距離75mmのレンズをつけたときと 同等である。このような場合APS-Cサイズカメラに対する50mmレンズは, 「35mm換算値75mm」と表現する。

参考: 画角の計算

以上のことを幾何学的に理解する。 画角は焦点距離とセンサーサイズの比率で決まるので,たとえば

APS-Cでの焦点距離50mmレンズの画角 幅:焦点距離=24 : 50 = 12:25
フルサイズでの焦点距離75mmレンズの画角 幅:焦点距離=36 : 75 = 12:25

の関係が成り立つ。つまり,フルサイズのカメラ での焦点距離を1.5倍したレンズの画角が,APS-Cサイズでの画角になる。

画角は以下の直角三角形の角2θを計算することで得られる。

view angle

$$\begin{eqnarray*} \tan{\theta} & = & \frac{w/2}{f} \\ \theta & = & \tan^{-1}{\frac{w/2}{f}} \\ 2\theta & = & 2\tan^{-1}{\frac{w}{2f}} \end{eqnarray*}$$

これを求める関数をRで定義する。

R
angle <- function (f, w) {
  2*atan(w/f/2)*180/pi
}

atanは逆タンジェント関数で,角度としてラジアンが返るので 180/π を掛けて度数法に直している。

定義した angle 関数を利用して,画角を求める計算例を示す。

# 焦点距離28mm,センサー幅36mmの場合
angle(28,36)
[1] 65.47045

# 焦点距離18mm,センサー幅24mmの場合
angle(18,24)
[1] 67.38014

最短撮影距離と最大撮影倍率

あるレンズで,被写体にピントが合う一番近い位置と センサ(フィルム面)との距離を最短撮影距離という。 また,撮像面に写った被写体の大きさと 被写体そのものの大きさの比を撮影倍率といい, もっとも大きく写るときの倍率を最大撮影倍率という。 マクロレンズは最大撮影倍率の大きなものを指す。

望遠レンズでも,最短撮影距離が大きければ撮像面に写る 被写体は実物よりかなり小さくなるので,望遠レンズだからといって 大写しできるとは限らないことに注意する。

画角計算のまとめ

  1. 自分の利用している(または欲しい)カメラのセンサーサイズを調べよ
  2. そのカメラのレンズの焦点距離(の範囲)を調べよ
  3. そのセンサーとレンズの組み合わせでの長辺側の画角を計算せよ

絞り・焦点距離・被写体距離と被写界深度

カメラでピント合わせをしたところにある被写体を,カメラに近づけると ある程度はピントが合ったままで,ある点を越えるとピントがずれボケてくる。 逆に遠方にずらしても,ある点まではピントが合っている。この, ピントが合っているとみなせる奥行きの量を被写界深度という。 被写界深度が大きいと,手前から奥までピントが合う記録的・記念撮影的な 印象を受ける写真になり,被写界深度が小さいと対象物以外がボケている 芸術的な印象を受ける写真になる。近距離に合焦した後ろでボケているものを 後ろボケ,その逆を前ボケという。

絞りと被写界深度

絞りの値が小さいとき,つまり光の流入面の面積が 大きいほど被写界深度が小さくなる。 つまりピントの合っていないところのボケ具合が大きくなる。

焦点距離と被写界深度

被写体までの距離が同じ場合,焦点距離が大きい(望遠)ほど被写界深度が 小さくなる。

被写体距離と被写界深度

他の条件が同じ場合, 被写体までの距離が近いほど被写界深度が小さくなる。

以上をまとめると以下のようになる。

絞り焦点距離被写体までの距離
被写界深度を小さく
(対象以外をボカしたい)
開ける(F値を小さく)大きく(望遠側) 近く
被写界深度を大きく
(全体にピントを合わせたい)
絞る(F値を大きく)小さく(広角側) 遠く

色温度・ホワイトバランス

光源の色は被写体全体の色を変える。たとえば,晴れて太陽に照らされている ときと,曇のときの景色の色は異なる。この影響を軽減させるカメラの機能が ホワイトバランス(WB)である。

*** 代表的な色温度の説明要るかな??? ***

ホワイトバランスの感覚把握

  1. 夕焼けを真っ赤に撮りたい,どうしたらよいか。

  2. 蛍光灯の部屋で料理を撮るとおいしくなさそう,どうしたらよいか。

露出と被写界深度の操作のまとめ

下記の2種類の写真を,明るい色の被写体と暗い色の被写体2つの組み合わせで 撮影せよ(2×2=4通り)。被写体の色の様子がうまく再現できるように 露出設定とホワイトバランスを工夫すること。

  1. 自分のカメラでもっとも前ボケ効果の大きな写真
  2. 自分のカメラでもっとも後ろボケ効果の大きな写真

Evのしくみ

カメラに写る画像の明るさをほどよくするにはどうしたらよいか考える。 カメラのセンサー(フィルム)に届く光の量は,光の入ってくる通路の面積と シャッターを開けている時間に比例する。したがって,適正な明るさに保つ場合,

面積×時間 = 一定

にする必要がある。積を一定に保つ計算は,logを取って 「対数の和を一定」にする計算に変換すると扱いが容易になる。 Ev: Exposure Value とは,光の量とカメラの露出の計算を暗算で 処理できるよう工夫された値である。

写真分野に限らず, 値が何桁も変動する現象を扱うときは,対数の計算がよく用いられる。

数学的背景

以下の公式を根底から理解している必要がある。

$\log ab = \log a + \log b$

以下の明白な例で理解する。

$\log_2(2^3\cdot 2^5) = \log_2{2^{(3+5)}}\\ = 3 + 5 = \log_2{2^3} + \log_2{2^5}$

カメラの露出の場合はlog2ベースだけの理解で構わない。

ある1枚の写真がほどよい明るさで撮れたとき,
  絞り=4.0,シャッター速度=1/60,感度(ISO)=200
であった。その状態から以下のようにした場合
面積2倍×時間1/2 = 1.0
となるので,元の明るさで撮れることになる。

2倍単位の変動量を「1段」という。 「段」を用いて言い換えると以下のようになる。

絞りをN段絞り,シャッター速度をN段遅くしたときの明るさは元と同じ。

カメラのF値,シャッター速度,感度の数値を見る。

F値

「焦点距離/有効口径」の値。焦点距離が一定なら口径,つまり 光の取り入れ口の直径の逆数に比例する。 焦点距離一定時に, F値が2倍になるということは分母の有効口径が1/2になるということで 円の面積はその2乗に比例した1/4になる。まとめると以下のようになる。

F値が2倍光の入る面積4分の1
F値がN倍光の入る面積2N分の1
F値が√2倍光の入る面積2分の1

F値は√2倍変わるごとに,光の入る面積が1/2倍ずつ変わっていく。 このため,F値は√2倍が1段でカメラでのF値操作も√2倍を基準とした 段階値に設定できる。

1.0 .,. 1.4 .,. 2.0 .,. 2.8 .,. 4.0 .,. 5.6 .,. 8.0

1段ずつでは変化が大きいので,1/2段または1/3段ごとに設定できる ようになっている。

T値

シャッター速度は通常「125分の1」のように1の逆数で表現される。 その分母に相当する数値が2の何乗かを求めると何段の変化かが分かる。

1 .,. 1/2 .,. 1/4 .,. 1/8 .,. 1/15 .,. 1/30 .,. 1/60 .,. 1/125 .,. 1/250
                              (16)     (32)     (64)     (128)     (256)
感度

感度(ISO)は100を基準として,200,400と値が増すにつれ, それに比例して取り入れる明るさが増す。「段」を2の巾乗で考えるので, 感度の値も2のべきを基準に変化させる。

100	200	400	800	1600	3200	6400	12800	25600

感度は上げれば上げるほど,暗いところを明るく撮れるが, その分画質が低下する。

Evの計算

F値が大きくなると,その2乗ぶんだけ撮影画像は暗くなる。 シャッター速度Tは実際には開放時間で、光を取り込む時間が長くなればなるほど そのぶんだけ撮影画像は明るくなる。 感度Sは何倍になったかで,それに比例して撮影画像は明るくなる。

この性質を対数を利用して表したものが 露出値である。F値の2乗と,シャッター速度T,感度Sの値を100で割ったもの のそれぞれ2の対数を取り,暗くする方向を正に取って足す。

$$\begin{eqnarray*} E{\rm v} = \log_2{F^2} - \log_2{T} - \log_2 \frac{S}{100} & = & 2\log_2 F + \log_2 T^{-1} - \log_2\frac{S}{100} \\ & = & 2\log_2 F - \log_2 T - \log_2 \frac{S}{100} \end{eqnarray*}$$

Evの例題

  1. 絞り4.0,シャッター速度1/60, ISO感度200のときのEvを求めよ。

    F=4=22, T=1/64=2-6 S=200であるから, $$\begin{eqnarray*} 2\log_2 F - \log_2 T - \log_2 S & = & 2\log_2 4 - \log_2 2^{-6} - \log_2 200/100 \\ & = & 2\times 2 + 6 - 1\\ & = & 4 + 6 - 1\\ & = & 9 \end{eqnarray*}$$

  2. 晴れた日の昼間はEv=14で撮影するとよいと言われている。

暗いとき

明るい昼間の撮影は苦労が少ない。夕方や室内など暗いときこそ 経験と知識がものをいう。 暗いときに適正露出の写真をきれいに撮るには, 機材の性能と技術が必要とされる。

  1. 絞りを開ける

    レンズの絞りをもっと小さくした(つまりもっとも 光の入口の面積の大きい)状態を絞り開放という。 開放のときのF値はレンズの性能によって変わる。 小さなF値に設定できるものは「明るいレンズ」といい暗い場面に強い。 ただし開放にすると被写界深度が下がり,ピント合わせが 難しくなることにも注意する。

  2. シャッター速度を下げる

    シャッター速度はある程度自由に遅くできるが, あまりに遅いと,手ぶれ,被写体ぶれが生ずる。 どの程度のシャッター速度でどういう被写体が実用的に写るかは 経験を積むしかない。

  3. 感度を上げる

    最新式で高機能のカメラほど感度を高くできるものが多い。 実際に高感度で撮ってみて画質的にどこまで許容できるかを 自分なりに判断しておく。

現実的には,絞りはレンズの性能ですぐ頭打ちになるので, 撮影現場では,シャッター速度とISO感度の調整で悩むことになる。 シャッター速度を過度に落としてぶれぶれになるのと, 感度を過度に上げてざらざらになるのと, どちらがましかを場面場面で判断して決める。

その他の撮影補助機構

ドライブモード

シャッターボタンを押したときの撮影タイミングを決める。 主に以下のモードがある。

シングルショット1枚だけ撮影。
連写ボタンを押している間続けて撮影。
セルフタイマー ボタンを押して数秒後に撮影。2秒前後と10秒前後の2つが 選べる機種が多く,前者は手ぶれとミラーショック防止, 後者は集合写真での利用を想定している。
露出ブラケット

適正露出での撮影に加え,露出低め,露出高め,の3枚 (あるいはそれ以上)を撮影する。失敗できない写真の,露出外れ防止, 手ぶれ防止に使える。

手ぶれ補正

手ブレによる像のぶれを補正する機能。ただし三脚撮影などでは 無効化した方がよい機種が多い。

手ぶれ補正機能の説明では「約4段の手ぶれ補正」 のような表記がされる。これはたとえば, シャッター速度1/15で撮影するときに,それより4段,つまり 24 ぶん速い1/250相当の速度で撮ったとき程度の ブレ具合に軽減できるという意味である。 手ぶれ補正の効果の例を示す。

シャドー補正とハイライト補正

黒つぶれしそうなところを明るく補正,白とびしそうなところを 暗く補正する機能。

周辺機材の活用

レンズフィルタ

三脚

ブレを最大限防ぎ,構図を確実に決めたものを撮影するときには三脚を用いる。 三脚を用いた撮影時の注意を簡潔に示す。

三脚選択

基本的に三脚は重い物がよい。持ち運びが苦にならない範囲で がっしりしたものを選ぶ。カメラ本体より軽いものは無意味。 仕様表に「最大荷重」があるのでカメラ+レンズの重さを超えるものを 選ぶ。また,三脚とカメラを繋ぐ部分を簡単に取り外しできる 「クイックシュー」タイプを選ぶと便利である。

三脚設置

三脚自身は極力平らな位置に置く。伸ばした脚のストッパーは確実に締める。 風でも揺れるので注意する。カメラ自身の振動もブレの原因のひとつなので ネジ等はしっかり締めて振動を最小限に抑える。

水平確保

たいていの三脚は運台をxyz軸自由に回転できる。このうちカメラ自体の 水平は確実に取るよう注意する。水平回転の微調整が難しい場合は 三脚の脚の長さで調節してもよい。このとき,太い方の脚ができるだけ 長くなるようにする。

合焦操作

フォーカス合わせは対象物に測距点を合わせて事前に確実に行ない, 実際の撮影時にはMFモードにしてピント位置がずれないようにする。 また,カメラの手ぶれ補正機能はOFFにする。

撮影操作

シャッターボタンを押す振動がカメラと三脚に伝わるので 本体のボタンは押さず,レリーズケーブルかリモコンを使う。 なければ2秒タイマーでよい。

露出確認

2,3度確認撮影を行ない,ピントやぶれの状態を確認するとともに, 露出も確認する。集合写真の場合は一番暗い位置に立つ人の顔が くっきり写る明るさにプラス補正する。暗部補正(シャドー補正)機能の あるカメラではそれを有効化する。

バッテリー

リチウムイオン色専用バッテリーのものと,単3電池使用の機種がある。 単3型対応機種は,近年ではニッケル水素電池(NiMH)を想定しているものが多い。 NiMHは各メーカーから発売されていて,品質や性能もまちまちであり, それをふまえたものが下記の表となる。

リチウムイオン専用バッテリー 汎用ニッケル水素電池
容量○△(製品による)
価格×(高い)◎△(製品による)
必要機材○(要専用充電器)◎(汎用充電器)
継ぎ足し充電◎〜×(製品による)
残量予測△(放電特性がまちまち)
温度特性△〜×(低温で電圧低下)
製品寿命△(10年後に入手できるか不明)

構図

構図の作り方には様々な流儀があるが,完全に範疇を外れるので ここでは触れない。ただし,記録的な写真でも,あとで利用するときに 見たいものがはっきり分からないものは価値が乏しい。

撮りたいものを大きくとらえ,何かと対比した形で収めておくと あとで見たときにも訴えたいものが明解となる。大きく撮るかわりに, 極端に小さく撮るのもよい。

自分を撮るときを除き,ガラス面などに自分やカメラが写らないように 注意する。輝く壁などをものを正面から撮ると写るので, 少し斜めにずれた位置で構える。ガラス越しに撮るときはレンズを ガラスにピタリとつけ接触部分を布などで覆いガラス面からの反射光が 写り込まないようにする。

配慮

恥部を追い求めるのは中学まで。 責任あるしかし面白いものを大胆に撮る。

後処理

最大画素数のままの写真は(鑑賞にはよいが)資料としては扱いづらい。 不要部分を切り取ったり(トリミング),扱いやすいサイズに縮小する。

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